24.大学教授 室伏きみ子先生(続き)

2013-12-16

今月のCoの花さん

「今月のCoの花さん」は、出産・育児・介護といったライフイベントと研究活動を両立してきた諸先輩方や、研究者としてのロールモデルをご紹介するコーナーです。

◎室伏きみ子さんのご紹介

所属:国立大学法人お茶の水女子大学名誉教授、ヒューマンウェルフェアサイエンス研究教育寄附研究部門教授、日本学術会議会員(Professor of Emeritus, Ochanomizu University  Council Member, Science Council of Japan)

専門分野:細胞生物学、生化学

●いよいよ本格的に研究者としての道を進むことになったくらいの頃、出産されたそうですが、お子さんができたときは、どんな風にお感じになりました?例えば研究への影響とかで不安や戸惑いなどは・・・?

 嬉しかったですよ!子ども好きなので、本当に嬉しかった♪ それで、夫がアメリカで仕事をすることになったので8カ月の息子を連れて一緒に渡米したんです。迷いとかはなかったですね。行ってみたら、ベビーシッターや幼稚園などの整備も進んでいたし、職場に連れて行ってもみなとても可愛がってくれていましたし・・・残念なのは、子どもが小さ過ぎて当時のことをほとんど覚えていないことですけれども(笑)。講義の中でもお話しましたけど、皆さんお若いうちに海外へ行かれた方がいいと思いますよ。欧米諸国なら子連れ留学だって、大丈夫!

●そんな留学中に、貴重な経験があったそうですが?

そうなんです。時代が少し違っていれば、女性としてノーベル賞を取っていただろう、という程のとても優秀な女性研究者Sarah Ratner博士の研究室に所属していまして、彼女には研究者としてのスキルをたくさん仕込まれました(笑)。自分だけがわかっていてもだめ、人を納得させたければそんな誤差じゃだめ、などなど・・・それまでの私のやり方では通用しない、ということをいつも指摘されました。そんなあるとき、金曜の5時まで、と決められた時間内でディスカッションをしていたんですけれど、私は自分の考えが間違っていないとしか思えないのだけれど、Sarahはどうしても納得いかない、ということがあったんです。それでその日は時間切れになってしまって、お互い納得できず少しモヤモヤした気分のままになってしまいました。それでも私は土日を家族と過ごして、気分もすっかりリフレッシュして月曜日に出勤したら、Sarahが私を呼びとめるんですね。何かしらと思ったら「きみ子、金曜の件はあなたが正しいと思う。私が間違っていたわ。」って。私はその時本当に驚いたし感心してしまいました。だって、本当にノーベル賞クラスの素晴らしい研究者が、いちばんぺーぺーな研究員に過ぎない私に対して、自分が間違っているって訂正して謝るなんて!しかも彼女はその週末ずっと私の意見について考えを巡らせてくれていて、自分の結論を朝一番に伝えようとしてくれていたのでしょう?アメリカはいわゆる上下関係だけで仕事をしないんだって実感した出来事でした。職場でも役職や肩書きじゃなくファーストネームで呼び合うし、本当に素晴らしい環境だわって思いました。

●若いうちに海外へ、というコメントの背景にはそんなご経験もあったんですね。 その後、帰国するきっかけは何だったんですか?

夫の仕事の都合で戻ることになったので。Sarahの研究室ではやっと仕事にも慣れてきて順調でしたから、子どもと一緒に残れば?って言ってもらえてはいたんですけど、子育てを一人でするとか、家族がばらばらに住むとか、そういう状況は私の中では考えられなかったのでみなで一緒に帰ってきました。その後、“低空飛行”な3年間を過ごしてからお茶の水女子大に助手として戻ることになりました。

● “低空飛行”な時期のことは、講義でも少しお話されていましたね。誰にでも人生に残念な時期ってあるかと思いますが(笑)、先生の場合はどうやってその時期を乗り切りましたか?

美味しいお食事を食べ、趣味の日本舞踊で体を動かすなど、仕事とは別に没頭できる楽しみを持っていたことは助けになりました。そしてなによりも良いお友達がいたこと。お食事に一緒に行くお友達。日本舞踊を一緒に習うお友達。職場でも辛かったらいつでも話を聞くよ、と行ってくださった先輩・同僚達。一晩中、私のグチに付き合って慰め励ましてくれた夫・・・私は本当に人との出会いに恵まれていると思いますし、協力とか支えあうって本当に大切だなと思っているんですよ。

●その後、お茶の水女子大に戻って研究テーマを決めるにあたってのお話、私ちょっと驚きました。ご自身の年齢(キャリア)から推察される研究費を想定して、お子さんの年齢も考慮したという・・・

そう。私が35歳で、子どもが3歳半くらい。つまり、研究費は少なくて、夜中まで掛かる仕事はしたくない。ただし学生達のための研究費を獲得できるテーマでなくては困る。それで、飼育経費がかさむ動物やヒトの培養細胞などは避けて、安価に培養できる真性粘菌を選択。高分子化合物は面白いけど徹夜実験をしなくてはならない場合がありうるので低分子化合物を選択。その中で興味深い生理活性をもつ低分子化合物を求めて実験を開始しました。

 そうやって始めた研究テーマでしたが、環状ホスファチジン酸(cPA)の発見までには長い年月がかかりました。真性粘菌から動物細胞の増殖を阻害する物質(PHYLPA)として単離するのに2年。その構造を決定して論文を発表するまでに7年。シャーレ2700枚を積み上げて、地道にひたすらひたすら格闘の日々でした。でも始めたからには諦めない。これが成功の秘訣なのかもしれませんね。

●に、、、2700枚!!研究というのは、忍耐も必要なんですね(汗)でも“実験好きがやめられない“先生だからこそ、cPAの発見につながったのでしょうね。では最後に、これから研究者もしくは研究職を目指す女性にメッセージをお願いします。

育児をしながら研究者を目指す方については、私の経験からいうと、子連れ留学がオススメです。欧米諸国であればベビーシッターも当然の社会ですしね。たまに、「子どもを人に預けてはかわいそう」という人がいますけど、私はそう思いません。親と子どもだけの世界を続けるより、多くの場所に連れて行ってたくさんの人に会う機会を作る、その方が子どもにとっては大切な経験だと思います。けっして「預ける」は「かわいそう」ではないです。だから心配せずに預けて、そして自分が子どもと過ごせる時間は大切に充実させる、その方がよほど子どものためにも、自分のためにもなると思います。仕事と育児の2者択一という考え方はやめて、どんどん活躍してほしいと思います

 そして、たくさんのお友達をつくってお互いに支えあっていって欲しいと思います。

 

●ありがとうございました!

 

<おまけ>

●先生の“こだわり”を尋ねてみました。

「cPAの「c」って、cAMPなどと同じように、cyclicの「c」なので、小文字なんですけどね。たまに大文字で「CPA」って書く方がいらっしゃるんですよ。違う~って思っちゃうのよ。」

皆さん、くれぐれもお気を付けくださいませね!